中小企業経営革新支援の内容


A.基本的な考え方

 新たな中小企業支援策の根幹をなす「経営革新支援」は、中小企業が新商品や新サービスの開発や提供、新たな生産方式や効率的な受発注システムの開発や導入等を行うことによる経営の刷新(経営革新)に対する支援措置を講じるものである。今日的な経営課題に対応するためには、新商品・サービス開発、販路開拓、人材育成等のよりソフトな経営資源に対する投資がハードに対する投資とともに重要になっており、これらの現実的かつ焦点を絞った実効性の高い経営革新を自らのイニシアティブで真摯に取り組む中小企業に対して政策資源を重点配分する必要がある。
 既存の中小企業支援策の根幹を成す中小企業近代化促進法は、主務大臣が近代化計画を策定し、これに沿った形で商工組合等が作成し主務大臣の承認を受けた構造改善計画に従って、組合員が行う構造改善事業に対する助成措置が支援策の中心となっている。構造改善事業の内容としては、法律上「新商品又は新技術の開発、生産又は経営の規模又は方式の適正化、取引関係の改善その他構造改善に関する事業」とされている。ここで、「経営の規模又は方式の適正化」とは、事業の共同化により規模の拡大、スケールメリットの追求を行うことを示唆しており、また「取引関係の改善」には共同仕入、共同販売により事業合理化のほか、適当競争、不公正競争の是正や適正加工賃の設定等取引関係者との間の取引条件設定も含んだ幅広い概念である。また、構造改善事業は、「個別の企業の近代化のみではなく、共通の課題をもった企業集団に属する企業が生産、販売等事業活動の種々の側面において相互に協力し、共同事業を行ったり、個々の事業活動を調整しながら企業集団全体として、その共通の課題の解決を図ること」とされており、業界全体としての取組みを前提としている。
 これに対して、「経営革新」とは、新商品・サービスの開発、新たな生産方式、情報化による製販一貫システムの開発等を含んだいわゆる中小企業の経営全般にわたる新たな取組みを想定している。「経営革新」に対しては、新たな取組みが必ずしも業界全体で画一的なものである必要はなく、むしろ多様な中小企業がそれぞれ創意工夫をこらして経営革新に取り組むことが重要であると考えられる。さらに、経営資源に限りがある中小企業が、組合やグループを形成して相互に経営資源を補完したり、大企業や国、地方の研究機関、大学等との連携等外部経営資源を有効に活用して経営革新に取り組むことも有効である。組合等が、組合員の事業に反映する新たな生産方式の開発等を行ったり、その成果を組合員に対して導入することなどの積極的な役割を果たすことも期待してよい。このように事業内容によって多様な組織形態が支援対象となりうる制度とすることが重要である。


B.経営革新の内容

 具体的な経営革新の内容については、新たな取組みとして、多様なものが存在しうるが、基本的には新商品やサービスの開発等の中小企業にとって新たな事業分野の開拓につながるものと新たな生産方式の導入や取引先との受発注のオンライン化等の中小企業の事業の効率化に関するものが存在する。
 「新たな取組み」とは、個々の中小企業者にとって「新たな」ものであり、既に他社において採用されている技術・方式を活用する場合についても原則として支援すべきである。ただし、業種ごとに同業の中小企業(地域性の高いものについては同一地域における同業他社)における当該技術の導入状況を判断し、それぞれについて既に相当程度普及している技術。方式等の導入については、政策的支援を行う必要性が少ないことから対象外とすることが適当である。
 経営革新は、経営面における効果が見込まれるものであることが重要であり、新たな取組みによって当該企業の事業活動全体の活性化して大きく資するものについて支援対象とすることが適当である。
 一部の業種においては、依然、設備の高機能化や共同化が大きな経営課題とされているが、これらの業種においても、設備の高機能化や共同化によって新たな生産方式を導入し、生産やサービス供給効率を向上させることが可能であり、このような業種の特性に応じた幅広い経営革新を支援する制度とすることが重要である。なお、一般的な設備更新や共同利用については、一般的な中小企業の設備投資に対する助成措置が用意されている。 また、新分野進出法における「新分野進出」については、新商品・サービスの開発、提供等として位置づけられ、また「海外展開」については、国内外の最適な生産分業を行うことによって国内事業の高付加価値化を図る場合などについては新たな生産方式の導入として支援していくべきであろう。
 このような観点から、「経営革新」の内容については、以下の4種型に整理することができる。
 1.新商品の開発又は生産
 2.新役務の開発又は提供
 3.商品の新たな生産又は販売の方式の導入
 4.役務の新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動
 なお、新たな経営管理手法については、生産や在庫管理のほか、労務や財務管理等どの改革についても事業活動全体の活性化に大きく資するものは、広い意味での生産方式と解釈し、支援対象とすることが適当である。
 このような幅広い経営革新を支援する際には、新商品開発、販路開拓、人材育成のための補助金や、これらのソフト経営資源投資に係る資金需要に対して低利の資金を提供する融資制度の整備等の支援措置を強化することが求められる。また、組合の事業に対する高度化融資についても、異業種の中小企業も力を合わせて経営革新に取り組めるようにするなど制度の抜本的見直しが求められる。


C.「経営革新計画」の経営目標とフォローアップ

 上記の支援すべき経営革新の内容について、限られた政策資源を有効に配分する必要があることから、国又は都道府県が計画の認定を行う等の方法が考えられるが、その際には、事業内容とともに定量的な経営目標を求め、経営革新に取り組む中小企業者が、それに向って邁進していくことを支援することが重要である。経営革新の効果を示す指標としては、営業利益率等の企業の利益に着目したものも考えられるが、付加価値額(営業利益、賃金、減価償却費を合計したもの)等に着目したものとすることがより適当であると考えられている。
 経営革新の内容によって、新製品の開発等の付加価値額等の拡大が見られる場合と、新生産方式の導入等の効率性(例えば1人当たりの付加価値額)の向上が見られる場合が存在する。したがって、経営革新の効果を測る指標としては、これらの2種類の指標を基本として、業種等の特性にも応じて、経営革新事業の内容に即したものを選択する方法が適当である。なお、業種によっては、著しい価格の低下が見られ、実質的に生産性が向上しても1人当たりの付加価値額(各自の労働生産性)の低下が見られる場合や付加価値額を算出することが困難である事業者も存在することから、必要に応じて生産量や輸送量等の物量統計や雇用者数等の指標を用いることが適切である。いずれにしろ、個々の中小企業の経営革新努力が公平に評価され、業況がよろしくない中小企業にとっても努力しがいのあるものとすべきである。
 さらに、このような経営目標も含めた経営革新計画の進捗状況についての国や都道府県がフォローアップする必要もある。国等においては、フォローアップの結果、必要に応じ、経営に関する診断についての助言を行うこと、あるいは、経営指導者の紹介、各種情報の提供等を行うことなども有効であろう。
 なお、経営革新計画の結果は、市場の判断によって決定されるものである。制度設計やその運用に当たっては、経営判断は個々の企業においてなされるべきものであり、国等の企業経営への介入は避けるべきであることはいうまでもない。