養殖業者を取り巻く経営環境は、薬品公害からくる消費・漁価の低迷、輸入物の攻勢、魚場環境の悪化、産地偽装等による安心・安全に対する消費者ニーズの高まり等、厳しさを増しつつある中で、薬品や飼料の使用等に関する養殖データの活用や養殖魚に対する安心・安全の確保という経営の近代化に努めています。今回は、
の5つについて見ることにします。
鹿児島県の鹿屋市漁港(古江港)
カンパチの稚魚は、5月から6月ごろにかけて流れ藻についている種苗をハマチの種苗を採取する際に漁獲されるのが普通ですが、その漁獲率は非常に少なく、日本の沿岸(特に、愛媛・高知 ・宮崎の沖)や、更には南方の魚場まで採取に出かけることもあるようです。しかしながら、採取量が非常に少ない事から、現在では養殖カンパチの稚魚のほとんどを中国からの輸入に頼っているのが実情です。従って、種苗の人工生産を急ぐ必要がありますが、もうしばらく時間がかかりそうです。
なお、中国からの輸入種苗は、中国・海南島付近の海で採取された稚魚を、海南島の養殖施設で一定の大きさ(12センチメートルぐらい)まで育てた後に、日本の寒い時期(3月ごろ)に運んできて日本の各養殖業者の養殖設備に配布されてくようです。養殖業者はこの輸入稚魚を一定期間かけて選別作業を行いながら、出荷できる大きさ(だいたい3.3キログラム以上)まで育成していきます。
カンパチの養殖は、ベネデニヤ等の寄生虫がつきやすい事から、寄生虫の駆除をこまめに行わなければなりません。そのため小割(網生簀)養殖が一般的です。
水温が9度前後に低下すると死亡すると言われていますので、冬季水温が比較的高い南方が適しているとされます。
なお、カンパチは水面上に跳躍する事から天井網を備えた生簀が普通で、網地の目合も魚体の成長に伴って大きくし、網糸の太さも増加します。
養殖カンパチの魚体の成長と収容尾数(体長と収容尾数、即ち放養密度は養殖業者毎のデータに基づいて、管理されているようです)により、生簀の大きさを決定していきます。
なお、カンパチは、皮膚寄生虫がつきやすく、環境の悪化の影響を受けやすいので、小割り網の交換を頻繁に行い日々の衛生管理に努めています。
投餌
投餌(給餌)は、各養殖業者にとって、カンパチの品質(出来)が決まるので、最も気を使う作業です。特に餌の種類と分量、与える時期等、効率よく魚を育成し、同時にカンパチの健康状態をチェックする意味からも重要な意味を持ちます。
一般的に、イカナゴ、マアジ、カタクチイワシ、サンマなどの生鮮品、冷凍生餌、配合飼料、ビタミン類のサプリメント等を混ぜて、粉状にしたモイストペレットを与えているようです。
摂餌取は魚の大きさのみならず、水温及び養殖場の環境(溶存酸素量、排泄物量、海流等)との関係が深い事から、各養殖業者は水温と給餌量、養殖場(生簀)の立地環境との兼ね合いをデータベース化しながら、きめ細かな配慮を行っています。
このように日間摂餌率や餌料効率などのデータを参考にしながら、旨いカンパチづくりに取り組んでいます。
最近では天然物の漁獲高が減少傾向にある事もあり、養殖カンパチに対する期待は大きなものがあります。
それだけに安全・安心な養殖カンパチづくりを求められている養殖業者は、
といった新たな取り組みを始めています。
ベネデニヤ等の寄生虫疾患、餌料に起因する栄養性疾患、ビブリオ等による細菌性疾患などに対して、日頃から消毒作業(防水シート、ブルーシート)、ワクチン接種(麻酔用水槽、保管用水槽)、生簀の清掃などに、計画的に取り組んでいます。
給餌履歴を取るために給餌量表をつけたり、薬品履歴を取るために薬品投与表をつけたりしています。
これらの地道な努力を積み重ねながら、安心・安全なカンパチ養殖に努めています。
これまでの養殖事業者は、漁協を通じて卸売市場へ養殖生産物を出荷するやり方が一般的でした。これは、漁協等の組合が、安定した販売市場の確保と代金決済(回収)機能を保証してくれたからです。
ところが、この10年の間に、デフレによる消費者の購入不振(需要低下)は、養殖事業者にも構造的変化への対応を余儀なくしてきました。即ち、従来型の得意先や販売チャネルでは、生き残りは厳しくなってきています。事実 、このデフレ的構造変化に対応できなかった多くの養殖事業者が廃業しています。
そこで、養殖事業者の中にも、養殖生産物に付加価値をつける仕組みづくり(製造加工)や養殖事業者が一般消費者、スーパーマーケット及び飲食店等の小売業者、食品加工業者等への直接販売の働きかけ、あるいは拠点販売、移動販売、ネット販売等のマーケティングを行うなど、市場ニーズに多様化に沿った製品開発・市場開発の努力を行っています。