1. 財務分析ってなに?

  2. 財務分析

 


 

 

財務分析ってなに?

これまで、企業の財務について、経理の役割・経理活動の記帳のツールである簿記、企業財務の最終目的とされる決算書を見るポイントを研修してきました。

今回は決算書の見方の総仕上げとして、経営結果としての数値を的確にとらえる為の手法(財務分析)について、学習する事にしますが、その前に経営分析の内容を見てみましょう。


(1)経営分析の内容

自分の会社の経営内容を知る為には、経営結果としての数値を的確に押さえる事が大切です。会社を知るには、

@経営結果としての数値を的確に押さえる事
Aその数値がもたらされた原因を経営活動に照らし合わせてみる事。そして
Bその数値でとらえ切れない事柄にまで踏み込んで経営の実態を考える事

の3つがバランス良く行われる事によって初めて可能になります。
したがって、経営分析とは一般的に財務分析と呼ばれる数値による分析(数値で計るという意味で定量分析といいます)と数値の背景にある数値を離れた経営活動の分析(量ではとらえ切れない属性的分析という意味で定性分析といいます)との2つの分析から成り立っています。

(図1)会社を知る=経営分析










 
・収益性の分析(会社の収益力)
・成長性の分析(会社の成長力)
・生産性の分析(会社の生産力)
・安定性の分析(経営の安全力)











・経営者の分析(経営に対する考え方、能力)
・人材分析(役員・社員の考え方、能力)
・人事、労務管理(モラル、労務方針、労務施策)
・組織管理(マネージメントのやり方等)
・市場環境の動向、企業イメージ
・教育、先行投資への考え方と実施状況等々


会社経営の問題点の把握

・組織(人・物)の問題
・営業面の問題
・生産面の問題    →経営方針との調整
・労務面の問題
・経理面の問題
経営戦略の策定
個々の経営改善策(フォロー)

 

(2)経営分析の着眼のポイント

経営分析とは、自分の会社のおかれている足元を冷静に見つめなおす為の作業を言います。会社を知る為には、経営活動の結果としての数値(経営活動を計数として把握する事)を収益性、成長性、生産性、安定性といった総合指標で理解する事と、その数値の背景やその数値がもたらされた原因を経営活動に照らし合わせて考え、数値でとらえ切れない事柄にまで踏み込んで経営の実態を考える事が必要です。

したがって、経営分析の着眼点のポイントは、数値によって経営の状況を的確に把握し、問題のある数値をいかにして採り出すかという事と、採り出した数値を日常の経営活動の状況に照らし合わせて数値を作り出す背景にまで目を向ける事が必要です。

(図2)

◆定量分析(収益性、安全性、成長性等)

◆定性分析(将来への開発、新分野開拓への熱意創意的社風)

 

 

 

甲社:現在、定量面においては高い評価を得ているが、定性面においては低いので、将来における定量面への影響を考慮すべきである。

乙社:現在、定量面においては低いが、定性面において高い評価を得ているので、将来的には、定量面への好影響を期待できる。
 

(3)経営分析の前提

経営分析とは財務諸表の分析や営業戦略及びそのやり方の分析、生産方法、人材能力、製品のライフサイクル等あらゆる角度から経営状況を分析して問題点の把握を行い、経営改善への手を打つ 為の作業を言います。

つまり、経営分析というツールを使いながら、経営改善の為に分析結果を応用していくわけですが、その前提としての次の2つの事を頭に入れておかなければなりません。

1)経営分析によって経営の黄信号をキャッチする事
経営分析は、企業に余力がある時に危険信号をとらえ、改善の手をうって問題点の解決策を見出す事にあります。
つまり、減収減益状態が長年続き、赤信号が出ている企業で経営分析を行い、改善策を練ったとしても、もはやその改善に耐えるだけの資金力や体力がないのが実情です。ですから、企業が正常な状態にあるときに、経営改善の 為の道具(経営分析)を使用する価値がある事を認識してください。

2)経営分析をもとに経営の状況を確認する事
数値を寄せ集めたり分解したりして行う経営分析も利用しなければいくら立派な分析をしていても意味はありません。出てきた数値を経営の様々な姿に当てはめて考える作業、つまり経営分析の結果と、経営の 現状とのずれを把握して、問題点を解決していこうとする経営努力を必ず実施する意欲を持つ事を留意してください。

 

 

財務分析

これまで、経営分析の意義と内容につい学習してきました。経営分析には定量分析と定性分析がありますが、定性分析の基礎となるのが定量分析です。ここでは、これまで学んできた財務諸表の見方(基礎)を前提に経営の姿を計数的に読み取る 為には、どの様な視点で数値を見れば良いのか、個々の数値をどのように整理し、比較する事によって経営的意味のある数値として読み変える事ができるのかを見ていきます。
 

(1)財務分析の意味と内容

財務分析とは、経営の総合的成果を表示する財務諸表について、経営の収益性、成長性、生産性、安全性等を総合的に診断し判断する為の手法をいいます。尚、総合指標と意味・内容については、以下の通りです。

(図3)

総合指標 意味・内容 着眼点
収益性 企業経営の成果(利益)の獲得状況を表わします。損益計算書を中心としたフローの善し悪しを収益性によって判断します。 収益性の中身(何で利益が上がっているのか、例えば商品開発によるものなのか、資金運用力によるものなのか等)を考える事が大切です。
成長性 売上や利益の年々の推移から、これらの数値が将来どのように移り変わっていくかを判断します。企業の将来への安定拡大の可能性を判断します。 量と質即ち売上、粗利益、人件費、経費、経営利益、労働生産性等がバランスよく伸びているかを考える事が大切です。
生産性 生産物を生産するに当たって、投入要素と産出高との関係を見るものでその企業の経営能率を判断する指標です。 生産能率だけでなく、会社の成果を作り出すのに貢献した諸要素に対しその成果がどのように配分されたかを考えるのも重要です。
安定性 過去のフローの結果としてのストックの健全性を判断する為の指標です。 将来の事を考えた上での安定性であるかどうかを考える事が大切です。

 

(2)収益性分析

収益性とは、企業経営の成果の獲得状況を意味し、その収益性を判断する為の指標として総資本回転率と売上高経常利益率とがあります。

1)総資本回転率
この総資本回転率が良好な時は、会社内における資本の流れが能率的に無駄無く行われている事を示しており、その結果会社の資本効率は高まり、同時にまた会社の資金繰りを好転せしめ、支払能力を良好に保つ事ができます。
つまり、無駄な資本の使用が排除され、全社内における資本の節約が可能になる結果、資本コストが引き下げられ、会社の資本収益性を高めるという効果を持つわけです。

<算式>

総資本回転率 売上高(注1)
総資本(注2)

(注1)売上高の他に、営業外収益をプラスして考える場合もあります。
(注2)総資本から遊休資本を除いて考える場合もあります。

上記算式からも明らかなように、総資本回転率は、企業に投入されている総資本が年間に何回転して売上高を形成するかという内容を示しており、総資本の中身をたどる事によって(図4)のように分解する事ができます。

(図4)

      売上高           当座資産     現金預金
総資本回転率         流動資産        
                   
    総資本           棚卸資産     売上債権
          固定資産        
                       

(図4)からも分かるように、固定資産、棚卸資産、売上債権、それぞれの回転率を高めない限り、総資本回転率も上がらず収益性も向上しない事が分かると思います。
従って、収益性を高める為には、遊休設備や不動産の削除、在庫の圧縮、売掛金の早期回収を図らなければなりません。

尚、総資本回転率判断の為の補助指標として、以下のようなものがあります。

(図5)資本の生かし方

補助指標 指標の意味 算  式
固定資産回転率(注1) 固定資産の効率
土地や設備等の固定資産残高の何倍の売上を上げているかで判断
(年) 売上高
固定資産
棚卸資産回転率(注2) 棚卸資産の効率
原材料、製品、商品の平均在庫の何倍の売上が上がっているかで判断
(年) 売上高
棚卸資産
売上債権回転率(注3) 売上債権の資金化効率
売上債権の平均残高の何倍の売上が上がっているかで判断
(年) 売上高
売上債権

(注1)
この比率が上がる事は、固定資産の効率が良い事を示していますが、一般的には固定資産には減価償却費がある事から、回転率は上がる傾向にあります。
(注2)
この比率は言うまでもなく高いほうが効率が良いわけで、不良在庫のチェック、適正在庫を測定する為の指標とされています。
(注3)
売上債権回転率は、この比率が高いほど回収が早い事を意味しています。

2)売上高経常利益率
経常利益は、経常利益に営業外損益をプラス・マイナスして算出されます。
従って、経常利益は会社の経常的な営業活動による収益力を表示し、企業のその業界における総合力を表示するものとしてまた、会社の収益性の基本的数値として重視されており、高ければ高い程よい事になります。

<算式>

売上高経常利益率 経常利益
売上高

ところで、売上高経常利益率は損益計算書の経常利益がもたらされる過程をたどる事によって(図6)のように分解する事ができます。

(図6)

      経常利益     限界利益   商品力   ・商品市場での成熟度
・ユニークさ
・顧客へのメリット等
         
             
  人 件 費   労働生産性   ・従業員の能力
・労働装備率
・管理システム等
     
売 上 高
経常利益率
 
             
      諸販管費   経費分配率   ・予算統制
・組織形態
・社風等
     
           
  売上高     支払利息等   財務力   ・在庫、売掛金のコントロール
・資金運用の巧拙等
       

(図6)から見ても分かるように、経常利益は粗利益から人件費や諸経費並びに財務費用等を控除した結果であり、当然これらの金額の大小により、売上高経常利益率の善し悪しも決まるという事になります。

従って、売上高経常利益率が低下した場合、商品力に問題があるのか、労働生産性の低さに起因しているのか、経費の使い方に起因しているのか、さらに財務力の問題なのか、それぞれの理由を経営の実態と照らし合わせて分析する必要があります。
尚、売上高経常利益率の判断の為の補助指標として以下のようなものがあります。

(図7)利益のあげ方  

補助指標 指 標 の 意 味 算   式
限界利益率(注1) その企業の持つ商品力
売上に対する限界利益の大きさで判断
限界利益 ×100
売上高
労働生産性(注2) 労働(人件費)の効率
人件費の何倍の付加価値を稼いでいるかを判断
限界利益 ×100
人件費
経費分配率 経費効率
限界利益からの経費への配分割合で判断
経   費 ×100
限界利益
売上高支払利息率(注3) 財務力並びに資金コントロール力
売上に対する金利の比率で判断
支払利息割引料 ×100
売 上 高

(注1)
限界利益とは、売上高から変動費(売上高の増減に応じて、一定期間における総額が比例的に発生する費用をいう)を控除した残額をいいます。
(注2)
労働生産性は、人件費の何倍の付加価値(ここでは、限界利益を付加価値に置き換える)を上げているかを表すものですが、その逆数を労働分配率といいます。なお、労働生産性については、生産性のところでも触れます。
(注3)
この比率は、有利子負債(借入金や手形割引)の絶対数が多すぎないかという安全性 を売上高との対比で検討しようとするもので、限度をわきまえない投資により借入金が拡張しているか、経営のどこかに無理が生じている場合はいうまでもなくこの比率は上り、売上高経常利益率は、悪化します。

 

(3)成長性分析

成長性とは、企業の将来への安定拡大の可能性を判断する為の指標です。成長性は、工場の操業度や利益の伸びでは判断できず、得意先が増えているか、シェアが伸びているか、これらのバロメーターとしての売上が伸びているかで判断しますが、たとえ売上が伸びていても、その伸び率以上に人員や人件費その他の計日が伸びていたり、粗利益や限界利益の伸びが売上の伸びを下回っていたりしては、バランスのとれた成長とは言えません。
従って、総合的に売上、コスト、利益の相互の伸びのバランスを判断する為に、以下のような指標を使うことになります。

1)売上高伸率
<算式>

当期売上高−前期売上高 ×100
前期売上高

@この比率は、前期売上に対する当期売上の伸び率を表示するもので、販売量や販売先、製品力(シェア)等の増加の度合いを示す指標として、重視されており、同業者比較、日本経済の成長率 等との比較を行う事により、その屈する産業の将来性を占うのもおもしろいと思います。

A尚、売上高伸び率は、大体10%以上あれば優良とされています。

2)限界利益伸率
<算式>

当期限界利益−前期限界利益 ×100
前期限界利益

この比率は、前期限界利益に対する当期限界利益の伸び率を表示し、利益製品の販売量増加、製品構成の変化等を見る指数とされ、固定費の回収力の増加を見るデータともされています。

3)労働生産性伸率
<算式>

当期社員一人当り
限 界 利 益
前期社員一人当り
限 界 利 益
×100
前期社員一人当り限界利益

この比率は、前期社員一人当り限界利益に対する当期の伸び率を意味し、商品力の増加、管理部門人員の増加等を見る指数とされ、人件費に対して何倍の限界利益を上げているかを見る場合の指数とされます。
ところで、成長性は企業の将来を占う意味で主要な指数ですが、このほかにも生産計画、設備計画、資金計画及び、研究開発活動等も考慮してみる必要があります。

例えば、

売上研究開発費比率 研究開発費 の伸び率= 当期売上研究開発費比率
売上高 前期売上研究開発費比率

 

(4)生産性分析

会社の収益性の基礎は、生産性にあります。収益力がいかに向上してもそれが生産性の向上に裏付けされたものでない限り、長続きするものではありません。
そこで、会社の生産性の分析指数について、説明することにします。

1)労働生産性
@収益性分析、成長性分析の中にも一部取り上げられていたように、
 

限界利益 ×100 で見ます。
人件費

労働生産性は、商品力(限界利益率)の低下、直間比率の悪化、高齢化による人件費の増大、社員数の急増といった要因の変化による生産性の増減を見るのに使用します。

A労働生産性の向上とは、少ない労働の投入を持ってより多くの産出高を上げることを意味しますから、収益性分析や成長性分析を補足するものとして利用されており、

 

一人当り売上高= 総売上高
従業員総数
一人当り人件費= 人件費額 等の
従業員総数

指数についても、物的労働生産性の補助指数として使用されています。

Bまた、労働力一単位当りどれだけの付加価値を産出したかを示す比率として、価値的労働生産性も使用されており、例えば

(イ) 人員当り労働生産性= 付加価値
期中平均従業員数
(ロ) 時間当り労働生産性= 付加価値
労働総時間
(ハ) 人件費当り労働生産性= 付加価値
人件費

があります。

(イ)は、従業員一人当りの付加価値産出額を見て、(ロ)は、労働者一人当りにつき時間当りの付加価値産出額を見て、(ハ)は、賃金が経営にとって割高か割安かを判断する資料として利用されています。

 

2)資本生産性
資本生産性とは、投入された資本によりどれだけの産出額を上げたかを見る指数であり、資本投資効率と資本装備率が代表的な指標とされます。

@資本投資効率
<算式>

付加価値
総 資 本

(注)付加価値=経常利益+人件費+金融費用+貸借量+減価償却費+租税公課をいいます。この指標は資本の投入により、企業の活動に加わっている種々の利益関係が生みだし与えた価値をどれだけ産出したかを示します。

A資本装備率
<算式>

有形固定資産−建設仮勘定
労働者数

この指標は労働装備率とも言われ、会社の生産合理化の程度を表示し、労働力が企業資本全体でどの程度装備されているかを見る指数です。

 

(5)安定性分析

経営の安定性(健全性)については流動比率、当座比率、借入金依存率、固定比率、自己資本比率、経営安全率等の指標があります。

@ 流動比率= 流動資産 ×100
流動負債
 企業の支払能力や資金繰りの余裕の程度を判断するうえで重要な比率です。
A 当座比率= 当座資産 ×100
流動負債
 流動資産の中でも流動性の高い現金預金、売掛金、受取手形等の当座資産と流動負債との割合を表します。
B 借入金依存率= 長期・短期借入金合計 ×100
総資本
 借入金が総資本に占める割合を示す比率であり、この比率が高いほど借入金に依存している事になります。
C 固定比率= 固定資産 ×100
自己資本
 自己資本に対する固定資産の割合を示す比率で、固定資産がどの程度自己資本で賄われているかを検討するものです。
D 自己資本比率= 自己資本 ×100
総資本
 総資本に対する自己資本の割合を示す比率であり、企業資本の調達源泉の健全性を示す重要な比率です。
E 経営安全率=1- 損益分岐点売上高 ×100
総 売 上 高
 この比率は、例えばプラス30%であれば売上高が30%減少しても赤字経営とならないことを意味しています。

 


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