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実際原価計算制度とは、製造業の場合、製品を製造するのにかかった製造原価を把握するための計算手法をいい、一般的には費目別(材料費、労務費、経費)にかかった総額を完成品に費やされた原価と製造途中にある仕掛品とに割り振り、完成品1個あたりにいくらかかったかを把握する計算制度をいいます。
ここでは、ブリ、フグ、マダイの3魚種を育成する架空の養殖業者を例にして魚種別の実際原価を算出してみます。
1)実際原価計算に必要なデータ
原価を計算するためには、まず実際にかかった費目ごとの生産データと発生原価データを把握する必要があります。各データは、以下の通りと仮定します。
<生産データ>
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ブリ |
フグ |
マダイ |
生産数量(t) |
125 |
65 |
418 |
出荷数量(t) |
91 |
20 |
108 |
期末在庫数量(t) |
24 |
45 |
310 |
餌投入量(t) |
430 |
210 |
1,047 |
作業時間(時間) |
3,114 |
2,240 |
2,720 |
係わった人員(人) |
2 |
1 |
5 |
<原価データ 変動費> 単位:円
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ブリ |
フグ |
マダイ |
飼料費 |
43,000,000 |
21,000,000 |
108,547,967 |
稚魚仕入高 |
2,940,000 |
2,940,000 |
9,775,000 |
薬品費 |
9,909,000 |
3,000,000 |
3,247,450 |
消耗品費 |
3,250,000 |
3,250,000 |
10,841,065 |
燃料費 |
902,000 |
129,8000 |
2,259,276 |
その他の変動費 |
48,400 |
1,525,000 |
3,030,520 |
<原価データ 固定費> 単位:円
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ブリ |
フグ |
マダイ |
人件費 |
42,663,982 |
30,493,715 |
22,156,256 |
販売促進費 |
1,838,032 |
1,838,032 |
4,973,288 |
管理費 |
4,600,000 |
4,000,000 |
16,294,417 |
その他の固定費 |
0 |
0 |
5,107,087 |
<販売データ> 単位:円
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ブリ |
フグ |
マダイ |
売上高 |
74,937,389 |
74,937,389 |
81,000,000 |
変動費
変動費とは、生産量(育成量)の大きさに応じて変化する費用で、飼料費、稚魚仕入高、薬品費、消耗品費、燃料費等があげられます。これらの費用は、魚種別に直接認識できる費用で、直接費と呼ばれる事もあります。
固定費
固定費とは、生産量(育成量)に関係なく一定の生産能力(人員、生簀、養殖設備等)を維持する限り、必然的に発生する費用です。これらの費用は、魚種別に直接認識できない費用がほとんどで、間接費(共通費)と呼ばれる事もあります。
直接費
魚種別に直接認識できる費用(主として変動費)は、投下した費用を魚種別の原価として集計し、計算します。直接材料費、直接労務費、直接経費と呼ばれる費用です。
間接費(共通費)
魚種別に直接認識できない費用(主として固定費)は、それぞれ費用毎に把握した期間費用(1か月、又は1年間の合計額)を適当な配賦基準によって魚種別に配賦します。配賦基準としては、直接原価、作業時間、生産数量、出荷数量などの合理的な基準を間接費の発生態様に即して決定します。
2)原価の計算方法
<魚種別原価計算表> 単位:円
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ブリ |
フグ |
マダイ |
直
接
費 |
材料費 |
2,940,000 |
2,940,000 |
9,775,000 |
労務費 |
42,663,982 |
30,493,715 |
22,156,256 |
経費 |
3,250,000 |
3,250,000 |
10,841,065 |
間
接
費 |
材料費 |
43,000,000 |
21,000,000 |
108,547,967 |
労務費 |
0 |
0 |
0 |
経費 |
10,811,000 |
4,298,000 |
5,506,726 |
当期総製造費用 |
102,664,982 |
61,981,715 |
156,827,014 |
期首育成原価 |
20,000,000 |
30,000,000 |
139,650,000 |
期末育成原価 |
19,758,117 |
37,628,883 |
126,247,080 |
当期育成原価 |
102,906,865 |
54,352,832 |
170,229,934 |
単位育成原価(t) |
823,254 |
836,197 |
407,248 |
出荷原価 |
74,916,114 |
16,723,940 |
43,982,784 |
直接材料費
- ブリ-------稚魚仕入高2,940,000
- フグ-------稚魚仕入高2,940,000
- マダイ---稚魚仕入高9,775,000
直接労務費
- ブリ-----人件費42,663,982
- フグ-----人件費30,493,715
- マダイ---人件費22,156,256
注)人件費は固定費ですが、ここでは魚種別に認識できると仮定します。
直接経費
- ブリ-----消耗品費3,250,000
- フグ-----消耗品費3,250,000
- マダイ---消耗品費10,841,085
間接材料費
- ブリ-----飼料費43,000,000
- フグ-----飼料費21,000,000
- マダイ---飼料費108,547,967
注)飼料費は変動費ですが、ここでは魚種別に認識できない間接費と仮定します。
間接経費
- ブリ-----薬品費9,909,000+燃料費902,000=10,811,000
- フグ-----薬品費3,000,000+燃料費1,298,000=4,298,000
- マダイ---薬品費3,247,450+燃料費2,259,276=5,506,726
注)その他の変動費、販売費促進費、管理費、その他の固定費は、販売費及び一般管理費として処理されると仮定します(育成コストを構成しないと仮定します)。従って、これらの費用は原価計算の対象となりません。
当期総製造費用
ブリ、フグ、マダイそれぞれの材料費、労務費、経費の合計額(直接費及び間接費の合計額)です。
期首育成原価
前期末までに出荷されずに当期に繰り越されたブリ、フグ、マダイのそれぞれ育成原価です。それぞれの数値で繰り越されたと仮定します。
期末育成原価(棚卸計算法として総平均法を選択したと仮定します)
期末育成原価=(期首育成原価+当期総製造費用)×{期末在庫数量÷(生産
数量+期末在庫数量)}で計算されます。
- ブリ
(20,000,000+102,664、982)×{24t÷(125t+24t)}
=122,664,982×0.1610738255=19758117(円未満切捨て)
- フグ
(30,000,000+61、981、715)×{45t÷(65t+45t)}
=91,981,715×0.40909090909=37,628,883(円未満切捨て)
- マダイ
(139,650,000+156,827,014)×{310t÷(418t+310t)}
=296,477,014×0.42582417582=126,247,080(円未満切捨て)
当期育成原価
当期育成原価=期首育成原価+当期総製造費用−期末育成原価で計算されます。従って、ブリ、フグ、マダイの当期育成原価は、この計算式に当てはめると魚種別原価計算表の数値通りになります。
単位育成原価
単位育成原価=当期育成原価÷当期の生産数量で計算されます。従って
- ブリ-----102,906,865÷125t=823,254(円未満切捨て)
- フグ-----54,352,832÷65t=836,197(円未満切捨て)
- マダイ---170,229,934÷418t=407,248(円未満切捨て)
出荷原価
出荷原価=t当りの単位育成原価×出荷数量で計算されます。従って
- ブリ-----823,254×91t=74,916,114
- フグ-----836,197×20t=16,723,940
- マダイ---407,248×108t=4,398,2784
以上のように、魚種別(ブリ、フグ、マダイ毎)に一尾(単位)当りの実際の育成原価が算出された事になります。原価管理は、この実際原価の発生態様を分析することから始まります。即ち、養殖業の場合、材料費(飼料費等)分析で、エサの種類、エサの作り方、エサの与え方、給餌量、エサを与える時間帯、海温と食いの状況等を見極め、また労務費分析で魚ごとの養殖仕様や作業方法等を見極めて作業手順の標準化を図ったり、経費分析で水質管理や病気対策を見極めたり、魚の死亡率を減らし歩留まりを高めるために生簀ごとの適正放養量を検討したりします。このように、実際原価をしっかりと計算把握して実際原価を分析する事が、原価管理の第一歩です。
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