創業事業の販売計画の作成上の留意点でも見たように、事業における採算経営を意識して計画を作成する必要から、事業規模に見合う必要売上高、必要利益を確保するための具体的な計画づくりの留意点を見ました。今回は販売活動を支えるための仕入活動と仕入以外の活動(経費支出)の計画作成上の留意点を見ます。
販売計画作成上の留意点でも見たように、採算経営を裏付ける必要売上高(必要利益)を確保するための目標管理(予算管理)上の区分に従い、仕入れや仕入以外の活動に伴い支出される費用を変動費と固定費に区分し、この二つの費用概念に基づいて計画作成上の留意点を見ます。
一応、理解の便宜上、飲食店を営む場合を前提として説明する事にします。
変動費は、販売計画作成上の留意点でも説明したように、販売(販促)活動がなければ発生しない費用(支出)です。つまり、売上高に比例して発生していく費用ですが、一般的な飲食店経営において、代表的な変動費項目は、材料仕入高、販売手数料、備品消耗品費等があげられます。事業経営上、変動費管理が重要視されるのは飲食店経営の事業採算を保証する必要利益確保のための源を作り出すものだからです。この源を会計用語で限界利益(限界利益=売上高−変動費)と読んでいます。一般的な飲食店経営上は、ほぼ粗利益に匹敵します。限界利益は、必要利益を生み出すためのエネルギー源ですから、この限界利益を極力最大にするためにも、変動費に関するデータ項目の計画は大事なのです。
飲食店経営にとって、変動費のほぼ80%以上を占める材料仕入高は、変動費計画の中心を占めます。限界利益(粗利益)=売上高−変動費ですから、採算経営のエネルギー源となる限界利益(粗利益)を最大化するためには、売上高を増やすか、変動費を抑えるかのいずれかです。
ところで飲食店経営の場合、限界利益はほぼ粗利益に匹敵しますが、粗利益=売上高−調理原価(材料費+労務費+製造経費)となります。この計算式からも分かるように、変動費を計画するためには、材料仕入と在庫及び調理原価を構成する労務費、製造経費に関するデータを収集して計画しなければならない事が分かります。
材料仕入計画の基本は、
イ.顧客のニーズ・欲求にあった材料を
ロ.顧客が注文してくれる最もふさわしい時期に
ハ.顧客が購入するのに最も妥当な価額でありかつ必要利益を稼げる価額で仕入れる
計画作成に尽きます。
従って、仕入計画上、収集しなければならないデータ項目は、
イの観点から売れ筋メニューの食材データ
ロの観点からメニュー毎の季節指数データ
ハの観点からメニュー毎の利益貢献度データが最低でも必要という事になります。
例えば、ハの利益貢献度のデータ収集では、メニュー毎の売上高、売上構成比(各メニュー売上高÷売上高合計)、粗利益率(粗利益÷売上高)、交差比率(売上構成比×粗利益率)のデータが必要となります。この交差比率の最も高いメニューが利益貢献度No1となり、このメニューの材料仕入計画を意識して作成する事になります。
在庫計画の基本は、
イ.顧客のニーズ、欲求にあった材料を
ロ.材料の保管場所として適正な場所で
ハ.顧客の需要を満たす適正な数量で計画することに尽きます。
従って、在庫計画上、収集しなければならないデータ項目は、
イの観点から売れ筋メニューのデータ
ロの観点から保管場所に関連するデータ
ハの観点から適正在庫に関するデータが必要となります。
例えば、ロの保管場所に関するデータについては、在庫計画に要する人件費・保険料・保証料・支払金利・減価償却費・固定資産税等の維持管理コストに関するデータや保管場所の条件(立地・環境・形・大きさ・性質・温度等)に関するデータが考えられます。また、ハの適正在庫の維持に関するデータ項目としては、材料毎の回転率・欠品率・返品率・ロス率・廃棄率・減耗率等のデータが必要となります。これらのデータにおいて、思わしくないデータを見つけたら原因分析を行って対策を講じなければなりません。
基本的には、人件費と消耗品費があげられますが、これらの費用にうち、調理に費やした原価を直接的に把握するのは難しいと思います。そこで過去の経験等に基づく妥当な配賦基準で按分するのが普通です。
ここで言う販売手数料とは、一定額を定期的に注文してくれる顧客や、一定回数以上来店してくれた顧客等に対して、売上金額を考慮する仕組みから発生する費用を総称して言います。
例えば、リピート客作りのためのポイントカード・特別招待券・会員限定割引券・特別サービス券等のように売上げを生み出す販売促進活動に関して発生する費用や顧客の紹介手数料等が代表的な費用です。
従って、計画作成上のデータ収集項目としては、使用率(使用者数÷来店者数)、消化率(使用金額÷設定総金額)、リピート率(使用による来店回数÷総来店回数)、売上占有率(使用による売上高÷総売上高)、販売手数料比率(販売手数料÷売上高)等が考えられます。これらのデータを前提にして計画を作成する事になります。
飲食店経営において、消耗品費として処理されるものには、10万円未満の少額物品(店舗の器具備品や設備等)・内装品・食器・メニュー表・紙袋・冷暖房燃料費・清掃用洗剤・作業用具・売り場、調理場、保管庫などの消耗品があげられます。消耗品費については、使用量(消費量)・使用(消費)金額・使用頻度等の大きいもの(経営上、重要性の高いもの)をピックアップして使用期日・使用担当者・使用目的・使用量・使用金額等の項目を確認しながら計画していきます。計画を作成するだけでも消耗品費の節約が期待できます。
固定費は、販売計画作成上の留意点でも説明したように、飲食店経営における販売(販促)活動が行われようが行われまいが、必ず発生する費用です。つまり、売上(販売)活動に関係なく、一定額発生する費用です。会計的には、飲食店の採算を確保するための必要利益をひねり出す最後のハードル(回収しなければならない最後の費用)となります。即ち、売上高−変動費−固定費=必要利益(会計的には経常利益)です。なお固定費として、飲食店経営では以下のようなものが代表的なものとしてあげられます。
人件費は、専従者給与、従業員給与、福利厚生費、雑給(アルバイトの給与等)、賞与からなります。固定費のほとんどを占めるので、この項目の計画は重要です。給与については、仕事の種類、内容、成績に応じた給与体系になっていることが重要です。また、専従者給与、従業員給与、雑給、賞与、福利厚生費等については、規定の定めがあり、業務の遂行に合わせて評価基準が整っている事が前提です。この費用の計画作成上の前提としては、従業員(親族)に関する年齢・勤務年数・勤務状況・人事考課内容・給与のベースアップの状況等が考えられます。
接待交際費は、得意先や事業に関係のある者について、接待・供応・慰安・贈答をした行為のために支出する費用をいいます。通常は将来的な売上の伸びに関係することを期待して支出する費用ですから、売上に対する支出割合は重要な意味を持ちます。また、同地域の同規模の同業他者との比較で支出割合を計画するのも一つの考え方です。この費用の計画作成上の前提としては、支出した内容・場所・相手方、支出の理由、支出金額等があげられます。
広告宣伝費とは、不特定多数(一般消費者)の人たちに対して、取扱メニューや取扱サービスの内容を知らしめて、販売を促進することを意図した支出を言います。事業者にとって商圏における知名度を高め、信用を培い、間接的に販売の拡張を図る費用ではありますが、効果的な使い方を考えるべきです。通常、広告宣伝費は、売上高の3%以内が標準とされていますので、参考にしてください。この費用の計画作成上の前提としては、使用した広告媒体、広告作成を依頼した業者、広告の内容、支出金額、広告後の効果(状況変化)、広告による集客数等があげられます。
維持管理費とは、飲食店経営に関する資産の保有、使用等について発生する費用をいいます。即ち、保有については店舗、附属施設、器具備品等の減価償却費、修繕費、固定資産税等の費用をいい、使用に関しては支払地代・支払保険料・水道光熱費・事務費・通信交通費・リース料等の管理費を言います。固定費は、1)の人件費、2)、3)の販売固定費、4)の管理固定費からなり、これらの3つの分野の固定費を限界利益(粗利益)から控除した残りが必要利益ですから、限界利益(粗利益)から必要(目標)利益を差し引いた残りを、それぞれ3つの分野の固定費につき人件費が50%、販売固定費が15%、管理固定費が35%という割合を計画作成上の目安にすると良いでしょう。この事を前提に、それぞれの項目につき、支払期日、支払先、支払金額等のデータを収集し、計画作成上の参考資料とします。