(1)安全な豚肉作りへの取組み
50年ほど前から、生産現場においては豚の生産効率を求めた仕組みづくりが行なわれてきましたが、近年消費者の食の安全、安心、健康への配慮を求めた要請が高まっている事もあって、生産効率から安全の確保という質への転換対応を迫られています。
特に、食品の生産、加工、流通、販売等に至る各段階の適切な履歴管理は、トレーサビリティ法によって、導入されました。このトレーサビリティ法に基づく履歴管理制度は、豚肉についてもJAS規格として導入されており、JASマークがついた豚肉を購入した消費者は、固体識別番号やロット番号から、店頭表示、インターネットなどを通して生産情報を見る事が出来るようになりました。このような制度の導入を受けて、豚肉の生産現場では、おいしさと安全性の確立が必要となっております。
1)品種改良
豚の品種は、400〜500種と言われていますが、肉用豚を生産するための主な品種は6種類5種(大ヨークシャー種、バークシャー種、ランドレース種、デュロック種、ハンプシャー種)です。
肉養豚の8割以上は、これらの純粋種を交配して作る交雑種です。肉養豚生産の現場では、その時代の要望に応えるために、体型、資質、能力等の改良目標を定め、遺伝的に望ましい個体を積極的に残せるよう、優秀な品種の豚を交配させ、よりニーズにマッチングした品種改良の研究に努めています。
2)飼育豚舎の工夫
仔を生むための繁殖豚と、肉豚として育てられる肥育豚は、別々の豚舎で飼育されるのが原則です。
肥育豚は、その成長に応じて、分娩舎から仔豚舎そして肥育豚舎へと移され、それぞれの豚舎毎に育成のための工夫がなされています。例えば、分娩舎では、仔豚は皮下脂肪が薄いため寒さに弱いので、床面は暖房設備により30度以上に保温されていたり、仔豚舎では皮下脂肪が厚くなって暑さに弱くなる豚のために大きなファンをフル稼働させたり、肥育豚舎ではストレスによる肉質の悪化をさけるために、ウインドウレスの広いスペースに放し飼いにする等の工夫をしています。
このように、飼育豚舎の様式は、どのような管理方式をとるかによって、変わっては来ますが、飼育群の規模、飼料の給餌方法、糞尿の清掃方法などを検討し、飼育形態にあった豚舎運営に向けて、工夫を行っています。
3)飼料の工夫
良質の豚肉を作るのは給餌する飼料の質と言われるぐらいに、生産者は飼料の工夫にこだわりをもっています。
例えば、臭みのない、あっさりとした風味の肉質を作るために、加熱処理したタピオカ、大麦、コウリャンなどの植物性のでんぷん飼料を与たり、脂肪の少ないでんぷん質の飼料を多く与える事で豚肉の脂肪を締めて肉全体の味わいを増す工夫をしたりしています。
使用されている飼料を大別すると、濃厚飼料と粗飼料に分類され、濃厚飼料は、穀類、糠類、油粕類、動物質飼料などに分類され、粗飼料は、青刈作物、牧草及びその粉末、根菜類などに分けられます。これらの他、残飯、厨芥、緑じなどの利用があげられます。
一般的に、大方の養豚事業者は、それぞれの飼育データに基づいて育成豚が必要とする養分量を知り、作り出そうとする肉質に合うように、いくつかの飼料を配合して給餌するのが普通のようです。
4)衛生管理
衛生管理は、健康管理と病気予防からなります。健康管理は、豚の固体管理(鼻先の湿り、毛づや、体温、呼吸、脈拍、フンの形、食欲、挙動他)と豚の飼育環境管理(日当たり、排水、通風、糞尿処理他)からなります。
病気予防は、ワクチン投与、予防接種、部外者の養豚場への立入り禁止、専用作業衣の着用、消毒液の常備、管理器具の消毒励行等を初めとする対策を言います。養豚事業者にとって、衛生管理は、日々の工夫を最も求められる分野であり、気を使う仕事だと言えます。
5)糞尿処理の工夫
糞尿処理の工夫は、豚舎の環境保全対策上、重要視されています。一般的には、糞と尿汚水は分離して処理されているようです。
糞の処理は、ビニールハウスを利用して乾燥させる方法や、コンポストで発酵分解して有機肥料として利用する方法がとられ、尿汚水の処理は、浄化槽によって微生物を利用する嫌気性処理法や好気性処理法、薬品を利用する化学的処理法等があります。
糞尿処理には、施設建設費や維持管理費という大きなコストを強いられるので、養豚経営上も工夫をしなければならない課題となっています。
以上のように、養豚事業者は、おいしくて安全な豚を作るために、品種、豚舎、飼料、衛生管理、糞尿処理等の工夫に多大な時間と手間をかけて、努力を続けています。